「それがるうるの支配魔術(イレギュラー)」(1巻)土屋つかさ

あらすじ

高校生、犬海丸(いぬかいたまき)(あだ名:マル)は、従妹の神宮晶と登校中、学校の時計塔から飛び降りる少女を発見します。その少女は、地面に激突するではなく、そのままジャンプして、空を自在に跳ね回っていました。彼女は水那斗るうる、『世界災厄の魔女』とよばれる魔術師でした。しかし「人間の身体には体重があり」人が浮くことはありえません。丸がそのことを指摘すると、るうるの身体に体重が戻り、再び落下を開始します。魔術が解けたのです。世界のルールを書き換える力を持った魔術師と、その魔術を破る力を持った丸をめぐって、物語が動き出します。

感想

本作は、魔術が存在する世界観での物語です。

まず魔術とは、「世界の《理》を一時的に差し替える能力」であって、原則的にその効果範囲は一時的です。主人公の犬海丸は「差し替え」られた対象を指摘することで、その魔術を破ることができます。あらすじで紹介したように、体重の存在を指摘することで、魔術が破れたわけです。

この設定は、一種の推理もののような緊張感を本作にあたえています。ルールを提示して、謎(課題)を提示すれば、読者はそれを解決しようとするわけで、あとは作中探偵や作者との勝負になるわけです。

本作では魔術によって世界に仕掛けられた「違和感」とその「解決」がテンポよくなされていきます。大がかりな仕掛けもあって、楽しめます。

内容にふれている感想

本作の物語という面からいうと、強い力を持った人間が、その力に悩む、というのがメインプロットですね。

冒頭から世界とは「ルール」の集合である、ということが言われており、そしてそのルールには「自分から望んで縛られて」いる面がある、と指摘されています。

たとえばカントの「自律」は、理性によって、自らきめたルールに従うことでした。「自由からの逃走」ではありませんが、自由というのは重いものなのです。

しかし一般的には、ルールにしたがっていれば、そういう重荷はせおわずにすみます。ルールに従う、ということをたった一つのルールにすれば、ルールひとつひとつを精査する必要はなくなるからです。

しかし、本作のるうるのように、そのルールが書き換え可能だった場合は、そういった重荷が全部自分の肩にかかってきます。その状態で倫理的にただしく生きようとすることは、はなはだ辛いことだと思われます。そこで本書の終盤の展開があるわけです。一種の逃走があるわけです。

ここで、支えになるのは、自分の「魔術」の外にいる人間、魔術のきかない人間である丸でした。魔術にかかってしまう他人は、自己と異なりません。ルールというのは、思い通りにならない他者となんとかやっていこうとするところに生まれます。そういうことを言っていると思います。

最後に

本シリーズは2011年から12年にかけて出版されました。

たしかに本書だけでは完結していない設定もありますが、全作が読める今であれば、つづきもすぐに読めるので、気になることは少ないと思います。

 

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